お囃子で郷土愛を育む:五日市上町囃子連Vol.1
投稿日: 2015/09/15
『つなぐ通信』Vol.11秋号では、
多摩地域の郷土芸能を取材しました。
そのなかで、地域の小・中学生に
郷土芸能の伝承活動に力を注いでいる
あきる野市五日市(いつかいち)の
「五日市上町囃子連(かみちょうはやしれん)」に
スポットを当てました。
現在(2015年8月末現在 )会員数65名で、
内23人が小学生から高校生までの子供会員です。
・・「あきる野夏まつり」に参加した
「五日市上町囃子連」の皆さん(撮影:貝塚カメラマン)・・
郷土愛を育てるには、
祭りやお囃子などの郷土芸能に触れ合うのが
とても効果的といいます。
お囃子連の子供達の練習風景〜本番の様子、
お囃子の歴史や流派のことなど、
『つなぐ通信』の紙面だけでは伝えきれなかった
お囃子や囃子連のことをお伝えします。
7月22日、「五日市上町囃子連」の
三浦伸雅会長にお会いするため、
JR五日市線の最終駅「武蔵五日市」を訪れました。
五日市は、かつては西多摩郡に所属し、
五日市町と呼ばれていましたが、
1995年(平成7)に、秋川市と合併し「あきる野市」に。
秋川渓谷の清流と緑豊かな山々に囲まれ、
歴史的価値のある寺社も多く、郷土芸能も盛んな土地です。
駅前のロータリーに停車しているカラフルな乗り物は、
国内で唯一、路線バスとして走っている
トレーラーバス「青春号」。
正面の形が機関車に似ていることから
通称「機関車バス」とも呼ばれています。
「武蔵五日市駅」から「つるつる温泉」間を走っています。
こんなマニアックなバスが走っていたとは驚きです!
五日市の檜原(ひのはら)街道に
沿うように流れているのは「北秋川」。
少し先の秋川渓谷を訪れる方も多く、
この近辺はキャンプなどアウトドアの絶好地です。
「五日市」は「5」の日に炭の取引市が
開かれていたことから付けられた地名といいます。
かつて「市神様(いちがみさま)」として
市(いち)の中心に祀られていた「自然石」(左の石)が、
現在は地域経済の発展を祈り、
五日市ひろばに安置されていました。(有形民俗文化財)
五日市地域に鎮座しているのが「阿伎留(あきる)神社」です。
平安時代にすでに存在していたとされる由緒ある神社で、
鬱蒼とした境内には大鳥神社、稲荷神社、菅原神社など
多くの神社が合祀(ごうし)されています。
9月28日(月)〜30日(水)の
「阿伎留神社例大祭(五日市まつり)」は
「あきる野三大まつり」の一つとされ、
全国でも珍しい、百貫(375kg)を超える
六角神輿(みこし)が
五日市の町中を練り歩く勇壮な祭りです。
「五日市上町囃子連」は、
この祭礼に“祭囃子(まつりばやし)”を
奉納することを目的に
昭和50年に、三浦会長の父・源二さんが中心となって
「上町囃子連」を結成したのが始まりです。
祭囃子は祭りに密着して発展してきたもので
奏者は祭りを主催する寺社の氏子や檀家である
一般の人が中心です。
「五日市上町囃子連」では、お正月は全員が集まって
拝殿に上がって神主さんにお祓いをしていただき
1年が始まるといいます。
お祭りの時も同じようにします。
三浦会長は、会員の子供たちには
「神社のためにお囃子があるんだよ」と教え、
子供達はお囃子を通じ、神様と自然と暮らしの関係、
そして礼儀、目上の人を敬うことなどを学んでいきます。
「神輿殿」には六角神輿、中神輿(中学生神輿)、
子供神輿など数基の神輿が収められています。
六角神輿は二代目、三代目があるようです。
今年は神輿渡御(みこしとぎょ)300年に当たり
それに向けて六角神輿は1年前より
大修理が行われています。
「阿伎留神社例大祭」は神社のある上町をはじめ、
東町・下町・ 仲町・栄町を中心とする5町内が、
子供神輿、 六角神輿、中神輿の渡御を行い、
神社宮本である小庄(こしょう)地区が お先祓い太鼓を、
五日市入野(いりの)地区が露払いとしての
「獅子舞」を奉納する、7町内の氏子による例大祭です。
神輿が主役の祭りではありますが、
お囃子にもたくさんの人が集まるようになり、
各町内の囃子連も趣向を凝らして祭りを盛り上げています。
ほとんどの囃子連は、例大祭をメインに練習を積んでおり
「五日市上町囃子連」や「五日市中学校伝統芸能部」なども
今年は特に練習に力が入っています。
「五日市上町囃子連」の三浦伸雅会長。
本業は理容師&美容師さん。理容院と美容院を営み、
2つの店を行ったり来たりとマルチな働きをしています。
「お囃子かお店か、どっちが本業かわからないね(笑)」
店内には父の源二さんが作ったお面や、
太鼓などのお囃子関連の小道具があちこちに。
息子の寛武(ひろむ)さんも、小学1年生から
お囃子をやっているという、親子3代のお囃子一家。
父・源二さんの代に作られた囃子連が
息子・伸雅さんを経て、孫の世代につながっています。
あきる野市では「教育現場と地域をつなぐ教育」を
奨励し、五日市中学校に伝統芸能部が創設されました。
「五日市上町囃子連」をはじめ、
師匠団体である「留原(ととはら)囃子保存会」、
「小机(こづくえ)囃子連」、「小和田はやし連」など、
学校区内にある神田流祭囃子の13団体が
「五日市中学校伝統芸能部後援会」を作り指導にあたり、
伝統芸能部をバックアップしています。
この活動のおかげでお囃子連同士の横のつながりができて
情報交換が密になったといいます。
五日市中学校のすぐ近くには「上町自治会館」があります。
祭礼前しか練習をしない囃子連も多い中で
「五日市上町囃子連」は、毎週水曜日を定期練習日として
年間を通しての練習を行います。
これは技術の向上ばかりではなく、
後継者育成を最優先課題として掲げているためで、
子供会員を積極的に募集し、同時に指導者も育成しています。
・・たくさんの方たちの協力で
念願の山車を持つことができました・・
お囃子の練習は毎週水曜日午後7時から始まります。
小学生は8時30分までで、その後は大人の時間となり
高校生以上が練習します。
本来は神社の祭礼のために練習を行うのですが、
1年に1回のお祭りだけだと、
なかなかモチベーションも上がりません。
そこで、八王子祭囃子連合会や東京都郷土芸能協会に
入会して、出番を増やして
スキルアップすることにしました。
しかし出場できる人数は限られるので、
その都度オーディションしてメンバーを決めます。
「チャンスは平等だけど、結果は平等ではない」
というのが、教育方針だと三浦会長は言います。
運動会の徒競走で順位をつけなかったり、
学芸会は全員主役という“ゆとり教育”もありますが、
社会ではそれが通用しません。
努力してスキルを上げて、チャンスは自分で掴みとり
結果を出さなくてはいけません。
お囃子の指導は“地域の社会教育の一環”なので
こういう厳しさも教えていかなくてはならないのです。
・・小学生から高校生くらいまでの子供会員。
年齢に関係なく、それぞれが兄弟のように
仲良く談笑したりじゃれあっています・・
始まりの号令がかかると、走り回っていた子供達は
正座して挨拶をきちんとし、
三浦会長や教育部長の平野好美さんなどから
本日の練習のことや、大切な心構えの話を聞きます。
8月1日(土)には「あきる野夏まつり」があり、
8月7日(金)〜9日(日)は「八王子まつり」
9月28日(月)〜30日(水)は地元の
大きな祭りの「阿伎留神社例大祭」があります。
三浦会長は「1回の本番は100回の練習に勝る」
本番で力をつけ、「阿伎留神社例大祭」で
花が咲くように頑張ってくださいと話します。
そして、本番では普段通りの姿ではなく
“普段以上にいいところを見せる”ことが
大事だと熱弁します。
普段通りは誰でもできる。
いざという時にいいところを見せられるのが
“お囃子のスゴさ”だというのです。
・・「あきる野夏祭り」のパンフレットを見せながら
お話しされる三浦会長・・
・・指導部長の平野さん(手前)・・
・・子供たちとは「交換日勤」のようなものを交わし、
練習の前に回収します。日々の様子、お囃子への努力、
気持ちなどが書かれています・・
・・普段の初心者の太鼓の練習には、タイヤを使いますが
この日は衣装をつけて本番と同じように
することになりました・・
「五日市上町囃子連」の練習の様子、
8月1日(土)の「あきる野夏まつり」の様子は
次回お伝えします。
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【文・写真:成田典子】