「寺田本家」の発酵する生き方Vol.1
投稿日: 2014/06/16
『つなぐ通信』Vol.6夏号の「工場・工房探訪」では
千葉県香取郡神崎町の創業340年の
自然酒蔵元「寺田本家」を訪ねました。
酒好きならずとも酒蔵元の取材は興味津々ですが、
寺田本家に興味を持ったのは、
酒造りだけではなく「発酵する生き方」を
実践している酒蔵元だからです。
「発酵する生き方」ってなに?
誌面だけでは伝えきれなかった
寺田本家の「発酵物語」をお話します。
・・・・創業340年の寺田本家。かつて薪や石炭で
米を蒸した時に使われていたレンガの煙突が
お蔵のシンボルになっています。
煙突の手前にあるのは井戸・・・・
酒の仕込みは秋にスタートし、4月でほぼ終ります。
5月の連休明けのこの日は、寺田本家オリジナルの
「マイグルト」という、米の乳酸発酵飲料作りのために
米を蒸す「蒸米(むしまい)」という作業の取材でした。
作業は朝8時から始まるということで
取材スタッフ全員、早朝5時台の始発電車の出発です。
みんな緊張してほとんど眠れなかったのは
いうまでもありません。
・・・米を蒸す「蒸米(むしまい)造り」。
「甑(こしき)」という大きなセイロの下には
「は釜」が埋まっています・・・
寺田本家は先代の23代目・寺田啓佐(けいすけ)さんの時に
微生物の力で造られる自然酒に
酒造りを大きく方向転換しました。
歴史ある酒蔵元も時流には逆らえなかったようです。
戦後の大量生産の時代からは、
原価を抑えるために安い米を使い、
当時主流だった醸造用アルコールなどの添加物を加えた
「早く・安く・効率よい」酒造りを行っていたのです。
酒を三倍に増やす「三倍醸造」という方法です。
・・・・「美化蔵」と名付けられたもと米蔵。
江戸末〜明治始め頃に建てられた米蔵は、
3〜4年前に改装されイベントなどの
コミュニケーションスペースとして利用されています・・・・
・・・古い蔵には微生物もたくさん住みついています。
中はひんやりとして、とてもきれいな空気が
流れている気がします。そういう独特の「場の力」
「場のエネルギー」を感じていただきたいのだそうです・・・
しかし、1970年代半ば過ぎから
日本酒離れがおき始め経営は苦しくなります。
居酒屋などにも手を出したりしましたが
上手くいかず借金はかさむ一方。
家族や従業員との関係もぎくしゃくし始め
啓佐さんは、病に倒れてしまいました。
そういう中で“本物”の酒とはなにかを
一生懸命に考えたといいます。
それは酒造りの技術だけではなく
“生き方”にも匹敵するものでした。
ヒントを得られそうな方達を訪ねたりもしました。
斉藤一人さん(高額納税者としても知られ、
運気が上がる独自の人生観を書いた本の出版も多数)や
青森県のリンゴ農家の木村秋則さん
(無農薬・無施肥のリンゴ栽培に成功。
『奇跡のリンゴ』石川拓治著でも知られる)
などとも交流がありました。
・・・斉藤一人さんにご縁をいただいたことに
感謝して建立した「ひとりさん観音」・・・
そうして自然の理にかなった“本物”の酒造りが
始まったのです。
お酒を飲むと、頭が痛くなる、気持ちが悪くなるなどの
「悪酔い」をするのは、添加物が原因だといいます。
昔、酒は「百薬の長」といわれていました。
ほろ酔い加減の適度な飲酒は、抗酸化作用が働き
美肌効果を高め、ストレスを解消し、
免疫力を高めるともいいます。
これは自然の微生物を取り込む、
昔ながらの製法で造った酒だからです。
微生物が造り出した、分泌物・代謝物が
効果を生み出しているのです。
発酵食品が健康にいいといわれるのも
微生物の抗酸化作用が働くからなのです。
・・・寺田本家の自然酒。左から「五人娘 純米吟醸酒」
「醍醐のしずく」「純米90 香取」。
右端は米の乳酸発酵飲料「マイグルト」・・・
・・・24代目の寺田優さんが「醍醐のしずく」を
振る舞ってくれました・・・
・・・「醍醐のしずく」は酒造りの原点といえるお酒で
割水や濾過(ろか)は一切行わないので、色も少し
黄味がかっています。仕込み時期により味が異なり
少し甘酸っぱいのが特徴。今まで飲んだ日本酒とは
別もの。本当においしい!・・・
・・・古い蔵の中にはたくさんの微生物が
住み着いていて、様々な微生物が発酵し合い
酒ができます・・・
啓佐さんが目指したのは「微生物の力」を生かした
「百薬の長」といわれる酒造りです。
酒蔵に住みついている天然微生物(発酵菌)の力で
発酵が進み、おいしい酒が造り出されます。
「米の力」をできるだけいただきたいから
無農薬・無化学肥料の米を使用し、
濾過(ろか)もやめ、
発芽玄米酒造りに挑戦したり、米をできるだけ削らない
精米歩合90%〜80%の低精米の酒造りが始まりました。
そして良い原料の吟味と同じくらい大切にしているのが
「微生物が喜ぶ」心地良い環境づくりです。
微生物が過ごしやすい温度や湿度調整をしたり、
地場を良くするために敷地内のあちこちに
炭を埋めたりもしていますが、
特に大切なのは「つくり手の心」だといいます。
・・・蔵によっては心臓部ともなる麹(こうじ)を作る「製麹室」。
部屋中に5トンの炭が埋められています。湿度や温度調節は
もちろんマイナスイオンを出す機械も設置。
微生物が発酵しやすい心地良い環境を作ります・・・
・・・酒の仕込みや絞りが終わり、
夏の間タンクや樽の中で寝かされて熟成中。
秋から瓶詰めされて出荷が始まります・・・
同じような環境のなかで、同じような条件で酒造りをしても
酒の出来具合は違ってきます。
これは微生物の状態が違っているからで、
微生物に微妙な影響をあたえるのは
なんと「人間の意識や感情」だというのです。
この続きは次回お話しします。
【文・写真:成田典子】