向島の仲間たち「東向島珈琲店Vol.1」
投稿日: 2014/03/14
『つなぐ通信』Vol.5春号では
「特集」や「大人のまち物語」の取材で
「墨田区向島」に触れる機会が多くありました。
取材を通じて感じたのは
「仲間の絆」や「下町の人情」の厚さです。
誌面では伝えきれなかった「仲間物語」をお話します。
「東向島珈琲店(通称:ひがむこ)」も
“つなぐ”をキーワードにしたカフェでした。
ここには美味しい珈琲やスイーツを
目当てにくる方はもちろん
マスターの井奈波(いなば)康隆さんや、
ここに集う仲間に会いに来る方など色々で
地域交流の場にもなっています。
みんな「ひがむこ」の心地良さが大好きなのです。
井奈波さんは「トラップ」ということばを使っていますが、
「人と人をつなぐ」のが実に上手です。
取材中も、「大尊敬する『スパイスカフェ』」
「兄貴と慕っている『バー ビー』」など
地元の仲間たちの店名がぽんぽん出てきます。
しかも形容詞付きで…
そして応援している仲間が店に訪れると、
すぐ紹介してくれます。
松浦伸也さんは毎週土曜日に曳舟(ひきふね)と
日曜日に両国で開催される産直市
「すみだ青空市ヤッチャバ(通称:ヤッチャバ)」の
事務局長をしています。
農家のない墨田区に生産者からの
美味しい野菜を届けたいという気持ちはもちろんですが、
墨田区のお母さんたちと全国の生産者たちが
仲良くなってつながって欲しい、
地域コミュニティを作るという
大きな目的があるのです。
これは震災時の経験が大きく影響しているようです。
・・・・自分をキャラクターにしてしまう人気者の松浦伸也さん・・・・
松浦さんは東京農大の大学院を卒業し、
墨田区に来たのはちょうど震災のあたりでした。
福島県で1年ほど仕事をした経験もあります。
高齢者の多く住む地域で、
震災で店が崩壊し撤退したところがありました。
交通手段もなく物資が遮断されてしまい
高齢者が食べ物が無くなって困っていたのです。
どうすればこのような問題を解決できるかを考えました。
それが「低コスト高コミュニケーション」の
ヤッチャバを作ることにつながりました。
ヤッチャバでは、出店料を安くして
生産者に野菜や果物、花などを安く販売していただきます。
無農薬や有機肥料にこだわることもしません。
大切にしているのは「生産者と消費者の絆」です。
これがあれば、いざという時に
お互いが助け合うことができるといいます。
中山間地、離島の農家さんなどが
大変な思いをして持ってきて販売してくれます。
九州や山形から来てくださる方もいます。
・・・・この日は離島の応援活動をしている細田侑さんと、
「日本の農業に一生を賭ける!学生委員会SOLA」のメンバーの大学生
伊藤はるかさんもいらっしゃいました・・・・
しかし、運送に労力がかかっても
農家さんは直接消費者の顔が見えるのが
本当に嬉しいのだといいます。
「野菜やりんごなどを買った墨田のおばちゃんたちは
次の週に、それでパンを焼いてみんなに配ってくれるんですよ。
寒い時には、ホッカイロを持ってきてくれる。
墨田はそういうあったかい地域なので
ヤッチャバをやって本当に良かったなあって…」
・・・・ひがむこは仲間との打ち合わせや仕事の作業など
オフィス代わりとして気軽に利用されています・・・・
テントを張ったり、野菜を並べるのを手伝ったり
チラシを配ったり、呼び込みをしてくれる
ボランティアさんは総勢100人ほど。
「楽しい」範囲のなかでやってもらっています。
1日で1000人くらいの方が買ってくれるようになりました。
「スタッフ、ボランティアさん、お客さん、
生産者さんの境目があまりないんです。
幅広い世代の方達が一緒になって、とてもいい雰囲気で…
なんか、その当事者の一人になっているのが
本当に心地いいんです」
ヤッチャバは2010年にスタートしました。
当初は友廣(ともひろ)裕一さんが
中心になって始めました。
震災が起きると彼は特別チームを組んで被災地に飛び、
現在「一般社団法人つむぎや」を立ち上げ、
石巻で支援活動をしています。
牡鹿半島の漁家の女性たちと、
鹿角と漁網の補修糸で作るアクセサリー「OCICA」は
話題になり全国販売され、ひがむこでも販売しています。
・・・・牡鹿半島の漁家の女性たちと作るアクセサリー「OCICA」・・・・
この日は友廣さんと二人三脚で活動している
多田知弥さんも紹介していただきました。
元外資系コンサルタント会社で活躍していた多田さんは
「ソーシャル男子」として
『ソトコト』でも取り上げられた人物。
社会的課題を従来のボランティア型ではなく
ビジネスの手法で解決していくという
「ソーシャルビジネス」は、今最も注目されているビジネスです。
ひがむこに集う仲間たちが向いている方向でもあります。
特に震災後は、そういう若者が増えてきました。
【文・写真:成田典子】