魯山店主・大嶌文彦と作家たち/陶芸家:伊藤聡信
投稿日: 2013/09/24
西荻窪の『魯山(ろざん)』は、骨董の器も作家の器も
同等に扱っている、希有な食器屋です。
江戸時代の古伊万里も、人気作家や無名の作家の器も
錆びた洗濯干しハンガーも
すべては店主の大嶌文彦さんの美意識の中で選ばれ
『魯山』という 「器」の中で
「大嶌ワールド」の空気感を醸し出しています。
・・・・西荻窪『魯山』。看板は大嶌さんが制作。
「魯」の文字の右上は鉄板で修理しています・・・・
『魯山』では、だいたい月1回のペースで
作家の展示会を行います。
展示会期間中は、
店内の商品は作家の作品にがらりと入れ替えられ
展示会に賭ける大嶌さんの“本気度”が伺えます。
『魯山』はある意味では若手作家の登竜門です。
2001年4月号の『芸術新潮』の特集記事の刺激もあり
大嶌さんを訪ねてくる作家も多いといいます。
・・・・展示会中(8月24〜9月1日)の大嶌さん(左)と伊藤さん(右)・・・・
陶芸家の伊藤聡信さんもその一人です。
『芸術新潮』での大嶌さんのカッコ良さに惹かれ
会って欲しいと電話しました。
大嶋さんからは「会ってもいいけど、ものはみないよ」
と言われました。
「僕は作品を見るのではなく、人を見る」
と言うのが大嶌さんの持論。
その作家とじっくり話しをして人物を見ます。
中には作品を見ないで帰っていただく方も
いるようです。
伊藤さんは、チャンスを狙い
白磁の作品をこっそり持参し、
しっかりと作品を見ていただくことができました。
しかし、大嶋さんからは「いいけど、下手だね」と…
大嶌さんは、見込みのある方には辛口もいい
どんどんアドバイスします。
当初はシンプルな白磁が多かった伊藤さんですが
「輪花皿」や「こんにゃく印判」の制作を
大嶌さんに勧められ、
その後、色絵もやるようになりました。
今ではすっかり伊藤さんを代表する作風になっています。
・・・更紗柄や南欧のソレイヤードにも見える色絵。
絵のタッチは柔らかく、どことなく懐かしさを感じます・・・
展示会では、伊藤さんに会えるのを楽しみに伺った
女性ファンも多くいらっしゃいました。
『魯山』で毎年展示会を行う常連作家であり
「行列のできる人気作家」の一人となりました。
大嶌さんが作家を気に入ったとしても
すぐ、展示会を行うわけではありません。
作家にアドバイスをしますが、かといって
「売れ筋」を作らせるようなことはしません。
作家は職人ではないといいます。
あくまでも自分のクリエーションに
一本筋の入った「ブレない」もの作りを求めます。
その作家らしさを伸ばすアドバイスです。
・・・・こんにゃく印判(右端)も伊藤さんの定番となっています・・・・
「僕は商いをしているから、
あくまでも“商売人”として立ちたい」
『魯山』は自分の趣味でやっている店でも
単なる雰囲気で売っている店でもありません。
ましてギャラリーでもありません。
一見無造作に見える店内も
大嶌さんの緻密な計算を感じることがあります。
作り手としっかり向き合い、いいものを作り、
売れる工夫をして一緒に売っていきたい。
これほど「商売」を意識して、
作家と真剣に向き合っている店は、
そうはないと、大嶌さんは自負しているのです。
次はガラス作家、小澄正雄さんです。
【文・写真:成田典子】