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魯山店主・大嶌文彦「白州正子はほんとに目利きか…」

投稿日: 2013/09/13

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・・・・魯山店主・大嶌文彦さん・・・・

秋号「大人のまち物語」で書ききれなかった
西荻窪の『魯山(ろざん)』のことをお伝えします。
昨年創業30周年を迎え、地元では名の知れた店。
しかし『魯山』を有名にしているのは、開業年数だけではなく
店主・大嶌文彦さんの強烈な個性と、
錆びたような空気感を醸し出す独特の店作りにあります。

大嶌さんは、『魯山』は「器屋」だといいます。
古い器や古道具と一緒に、作家の器、
大嶌さんが鉄の廃材で作った花器などもありますが
メインはふだんの生活で愛用する「食器」です。

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・・・・テーブルは大嶌さんの作業台であり、レジスペース・・・・

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・・・・ふるいレジスターはもちろん現役。
使い込まれた道具類もいい雰囲気です・・・・

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・・・・左端の四角いアルミ缶は、ジュース缶をつぶして作った
大嶌さんのタバコケース。灰皿も廃材を利用したもの・・・・

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・・・・大嶌さんのトレードマークのようになっている
作業中に使用する革のエプロン・・・・

大嶌さんは、『魯山』の店主であり、
若手作家のプロデューサーであり
自らも廃材などで制作する作家であり、
依頼があれば、ギャラリーや店舗の内装を手掛けます。
「目利き」として、独自の美意識を持つ「作家」として
一目置かれている存在なのです。

大嶌さんを一躍有名にしたのは
『芸術新潮』2001年4月号の
「骨董の眼利きがえらぶ 現代のうつわ」という特集でした。
4人の眼利きが「ふだんづかいの器」について語り合い
自分の気に入っている器を見せ合う企画です。
この特集は2002年に、新潮社とんぼの本より
『骨董の眼利きがえらぶ ふだんづかいの器』のタイトルで
出版されています。今も人気のある本です。
正統派の骨董屋さんからは、骨董界の大御所など2人、
古道具屋さんからは、大嶌さんと坂田和實さんの
新進気鋭の2人が出席。
司会は、白州次郎や白州正子の著書でも知られる、
骨董評論家の青柳恵介さんです。
価値観の違うメンバーに、大嶌さんは
「これはバトルを前提にした座談会だな」と察したといいます。

ふだんづかいの器
・・・・『骨董の眼利きがえらぶ ふだんづかいの器』・・・・

一番若い大嶌さんは、大御所相手に、
思ったことをズバズバいいます。
ぴりぴりした場の空気が本から伝わってきますが、
大嶌さんの口から直接聞いた生々しい現場の状況は、
このブログにも書けないほど。
あまりのスゴさに…大爆笑です。
その座談会の中で大嶌さんは
「白州正子さんはほんとに眼利きだったんですか」と
切り出します。
「白州正子」は、青柳恵介さんとは切っても切れない方。
新潮社にとってもドル箱です。
場の空気が凍り付いたのは言うまでもありません。

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・・・・大嶌さんは「目利き」として取材されることも多い。
『向田邦子 暮らしの愉しみ』(とんぼの本)では、
「器から読み解く向田邦子像」を語っています。
自分は「人読み、もの読み、時代読み」だと!・・・・

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・・・・大島さんが見ている右ページの土瓶は、
今は人手に渡ってしまいましたが長年愛用していたもの。
割れた所を繕いしたり、針金で持ち手を付け替えたり、
これはもう大嶌さんの「作品」になっています・・・・

大嶌さんは、「ふだんづかいの器」を選ぶ
白州正子の眼に疑問を持っていました。
白州正子は骨董の指南役である青山二郎や小林秀雄の
眼の範疇を一歩も出ていない。
いわば彼らのお墨付きの「ブランド品」を安心して買っているだけ。
自分で選んだふだんづかいのものは、どうも眼が甘く
“ブレ”がありがっかりすると、はっきりとおっしゃいます。

その点、向田邦子の器の選び方は納得できる。
大嶌さんと好みが違うものもありますが、
自分の感性でしっかり選んでいるのが分かるのだと。
大嶌さん曰く、白州正子は「知識の人」向田邦子は「感性の人」。
好きなのは向田邦子です。

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・・・・廃材を利用して制作した鉄の花器は、有名な華道家にも
愛用されています。すべてに「素材解釈」が重要だといいます・・・・

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・・・・錆びた鉄くずは、棚を作ったり、作品の材料になるもの。
店の隅にさりげなく置いていますが空間にとけ込み、
まるでオブジェのよう・・・・

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・・・・トイレの中にも、装飾のように道具類が!
あらゆる空間にセンスの良さが感じられます・・・・

大嶌さんにインタビューしていると
「ブレないこと」「自分の眼をしっかり持つこと」を
とても大切にしているのが分かります。
これは「魯山」を訪ねてくる、若い作家さんにもよくいうことです。
『藝術新潮』の特集を見て刺激され、大嶌さんに会いたいと
『魯山』を訪ねてくる作家さんも多くいます。
次回は『魯山』で展示会をする作家さん達を紹介します。

【文・写真:成田典子】

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