つなぐ通信 Vol.18
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きたのです。見渡すと近所には、創業210年の藍染の「野口染物店」や、創業87年の「岡村織物」、ニットの「青山良」など優れた工場が点在していました。八王子の織物の歴史も調べました。「ダサイ地域」と感じていた中野上町が、一気に未来のものづくりを担う「シブイ地域」に思われてきたのです。「僕は、クリエーターと全国の工場と結びつけて、新しいものづくりの仕組みを作りたいと思い、デザイナーと一緒に産地巡りをしてきましたが、どうしても繊維業界の中だけではうまい解決法が見つからず、行き詰っていたんです。しかし、木工クリエーターなど、いろんな分野とつながることで相乗効果が働くことに気がつきました」 昨年、中野上町にある元機屋の空き物件と出会いました。隣に赤いノコギリ屋根の工場のある立派な家屋でした。「ここを借りて拠点にしたら自分のやりたいことが全部結びつくかもしれない」と直感。かつて八王子は織物や生糸の集積地であり、長い歴史の中で「ものづくりの魂」が込められている地。目に見えるリアルなコトをつくれば、そこに人やモノは集まるはず。この地には「ハブ」とactivityeducationHachioji「つくるのいえ」で行われているクリエーターのための経営塾。講師は八王子の活性化に尽力している小俣能範さん。生徒第1号は「petite robe noire」のオーナー阿部好世さん。再生 循環産地をつなぐハブ機能が織物の集積地八王子だから持てる全国繊維産地のデータベース化で産地の「再生」を図りたい真面目なコトを楽しくやるのが奥田流。いいコトも目立たないと注目されないので、パフォーマンスは大事なようだ。1デザイナーを引き連れて浜松の産地見学。2文化学園ファッションリソースセンターの特別ワークショップ。文化学園や多摩美の講師も務める。3奥田塾の様子。4八王子に(株)糸偏の宮浦晋哉さんを呼んで産地事情の講演会を開催した。56セコリ荘のYouTubeではクリエーターを呼んで、現場の話をしてもらった。なる機能やDNAが備わっているのだから・・・そう確信して「つくるのいえ」づくりが始まりました。 4月のオープンに向けて、奥田染工場のスタッフ、父の代からの仲間や若い仲間が手弁当で手伝ってくれています。リノベーションのディレクターは、中野上町の木工クリエーターである小松和久さん、岡本道雄さんの2トップ。業界でも名の知れている2人の指揮官のもと工務店(株)クラフトの秋本将之さん、庭師で大工仕事までこなす本橋幸太さんが関わりました。「物件を見たら非常に贅沢な作りでしたので、織物産地という背景も大切にしたいと思い、大きなリノベーションはせずに、日本家屋の伝統的な部分を修復しながら生かし、ここにしかできないものを作り上げることを提案しました」(岡本さん)「奥田さんからはギャラリーを作りたいという希望がありました。ちょうど玄関正面が、女工さんが寝泊まりしていた部屋で、箱状のスペースだったので、床を外して天井を高く見せ、ここだけは大きく変えました。しかし上がり框のある玄関周りは残したいので、修復にするというように、非常に細かな工夫をしています」(小松さん)「今は『つくるのいえ』のリノベーションにウエイトがかかっていますが、僕の本当の目的は〝全国の繊維産地のデータベース〞を作ることなんです。みんなが自由に検索できることで、産地とクリエーターがつながったり、産地と産地がつながることでモノが生まれる。産地で働いてみたいという人の情報源になり、人手不足が解消できたり、今の時代にあったものづくりの流れをつくることができれば、産地の『再生』も可能だと思うんです」 データベースを作るパートナーに選んだのが近藤弘一さんでした。近藤さんはファッション情報サイト「DEEP FASHION」の編集長であり、「つくるのいえ」のウェブシステムを担当してくれています。かまち写真提供:奥田博伸08TSU NA GU TSUSHIN

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