つなぐ通信 Vol.18
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西村玲子のつなぐ暮らしイラストレーター、エッセイスト。日々の暮らしの中で感じたことを絵と文で綴り素敵なライフスタイルを提案。幅広いファン層をもつ。アクセサリーなどのクラフト制作活動のほか、現在インスタグラムに夢中。著書200冊以上。西村玲子 にしむられいこprofile毛糸玉の幸せ 友人が手編みの靴下をプレゼントしてくれた。以前にもレッグウォーマーをいただいた。ヨガをやっている息子が欲しがる。息子にあげていいかしらというと、もちろん、使っていただけたら嬉しいわ。友人のY子さんは自宅でニット教室をしている先生だ。学校に通い先生の資格を取得した、20年以上のベテラン。 私の母も毛糸を手放したことのない人で、着なくなったセーターをほどいて、洗って干して毛糸玉にして、新しい糸を足して、編み込みのセーターなどを作ってくれた。毛糸玉を作るとき、手伝いの私は両手を毛糸の輪に入れて、巻き終わるまで我慢しなければならない。それが退屈で、まだなの、腕が痛いよ、と文句を言っていた。陽だまりの庭に面した廊下だった。穏やかで幸せな思い出。文句など言わなければよかった。 そんな昔を思い出させてくれたY子さんの靴下は、足を優しく包んでくれて気持ちがいい。編み込みに見えるけれど、この変わり糸は編むとこんなふうになるの、ということ。私も母の真似をして手編みに夢中になった時期もあった。せっかく編むのだからと、凝りに凝った編み込みや、アーガイル模様、縄編み、ポップコーン編みなど、基礎も出来ていないのに、夢中になった。当時、六本木にしゃれたニットのお店があった。その頃の六本木はのんびりとしていて、ローン地の専門店があったり、「かしわ」というタータンチェック専門のお店があったり、いい時代だったな。 雑誌の『ELLE』に出ていた毛皮風ロング袖なしコートを毛糸で作って、それを着て毛糸屋さんに。それを見たおばさまが眉をひそめて「まあ、なんてことでしょう、この子のニット。大事な糸をこんなに切り刻んで、なんてことかしら!」と今にも叫び出しそうな大声。20代の私は理解できなかった。まるで魔女裁判にかけられたかのように、こそこそとその場所を離れた。今思うと自由な時代の幕開けだったのかもしれない。表参道に出来たファッションビルに入っていたニットのお店、混ざり色のシルクの糸で編んだシンプルな形のカーディガンとセーターが、床の上に山のように重ねて飾り付けられていた。どれか一枚欲しかった。この店の森岡さんの作品は画期的だった。 こんな風にファッションの歴史を眺めて育ってきたことが、なんだか嬉しい。36TSU NA GU TSUSHIN

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