つなぐ通信 vol.03 2013秋号
21/40

21TSU NA GU TSUSHIN オイルをたっぷり食った革はがんがん使うほどにいい味になる写真=貝塚 純一 文=成田 典子  吾妻橋を渡り隅田川の花火やスカイツリーが絶景の地に、1階が鞄工房、2階がショップの『ヒズファクトリー』があります。墨田区の産業PRと地域活性化を図る「3M運動」のひとつ「工房ショップ」にも認定されている、店舗と一体化した新しいタイプの工房です。 代表の中野克彦さんは、まさに職人気質。使用している革や制作工程を、とことん説明します。なかでも力が入るのは、イタリア製のベジタブルタンニン鞣しのオイルレザーの話。「タンニン鞣し」とは植物性タンニンを使用する鞣し法です。染料で染めているため、はじめは色落ちしますが、使い込むほどに艶が増し、革本来の独特の風合いがあらわれ、美しい経年変化が楽しめます。 惚れ込んでいる革は、トスカーナ地方の職人による最高峰のオイルレザーです。秘伝の牛脂をたっぷり加え、1カ月以上タンニン槽に浸け込む「バケッタ製法」と呼ばれる伝統的な鞣し技術で作られています。ちなみに短期間で作られる量産の革は、化学薬品による「クロム鞣し」が主流です。表面を顔料で塗装するため、オイルレザーのような1裁断から縫製まですべて自分一人でやるから、ここまでこだわったものができ、価格も抑えられる。仕事には神経質という。2惚れ込んでいるイタリアのタンニン鞣しのオイルレザー。色数も豊富。3タフな革はドイツのADLERのミシンで縫う。4NIPPYの革漉き機。56革の裁断機と刃型。1965年生まれ。東京都出身。「すみだ工房ショップ」に認定されている、ショップと一体化した鞄工房『ヒズファクトリー』代表。素材から制作工程まで細部にこだわったオーダーメイドと、オリジナルブランド『Slow Motion』の製造販売を行う。ワークショップを開催したり、もの作りイベントなどに参加しながら人とのつながりを大切にしている。趣味はサーフィン。中野 克彦さん●HIS-FACTORY東京都墨田区吾妻橋1-16-5☎03-5619-1602月~金10:00~19:00土日13:00~19:00不定休http://www.his-factory.com/経年変化の美しい色艶は味わえません。 「たっぷりとオイルを含んだこの革は爪で傷つけてもすぐ元に戻るし、ガンガン使い込むほどに艶が出てどんどんいい味になる。『枯れないで育つ革』なんですよ」と自信を見せます。2階のショップには6〜7年前に作ったサンプルもあり、経年変化の様子がよくわかります。なめつや 鞄作りで特にこだわっているのは、革のコバ(ヘリ・切り口)を磨く「コバ磨き」です。一般的な革は、コバに樹脂塗料が塗布されていますが、中野さんはパーツひとつひとつを丹念に磨き艶を出し、美しさを引き出します。ショルダーベルトや持ち手など、体に当たる箇所はカンナで「面取り」をするという徹底振り。 「この革は裏側まできれいに染まっているでしょう。美しさを出してあげないともったいない。裏地、金具、糸の素材も吟味し、負担のかかる部分は革の漉き方を厚くするなど補強面にも工夫しています。こだわりの話をしたらきりがないですよ」と力説。「作り手の魂を込めた」もの作りにしたいのです。 驚いたのはゼロから作るフルオーダーの鞄は「プロトタイプ」を作って試作す魂を込めたもの作りで企業にはできないことをやるす

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です