つなぐ通信 vol.06 2014夏号
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35TSU NA GU TSUSHIN 公職とは無縁の「浪人」だからできる「義勇奉公の誠」浪人の巨頭・頭山満が果たした「政府監視人」の役割手となっては手も足も出ない。あちら(英国)を立てれば、こちら(頭山満・玄洋社)が立たず、というわけで実に四苦八苦した。 もっともそれでは余りにも政府がかわいそうだということになり、頭山満は使いをやり、石井菊次郎・外務大臣と会談させた。政府の中では「これは外交問題だから外務大臣が責任をとるべきだ」「いや、日本国内で捕まえられないのだから内務大臣の進退問題だ」と喧々諤々の議論だったという。 それに対して頭山満の意向を受けたこの使いは「それでは外交問題ということにして、逃げた者は逃げたなりに外務大臣である自分に預けてくれと説明すれば良いではないか」といった。だが、それで国内的には収まるにしても、今度は英国との関係をどう収めるかが問題となる。 しかしここでこの使いは、頭山満の意を受けてこう言ってのけたのだ。「日本は欧米諸国と異なり、建国の歴史も異なり、国家組織も異なり、人民の階級もまた異なる。それで、日本には浪人という一種の階級がある。その中心となる者は、真の国士であって、今回問題の中心人物たる頭山はこの浪人の巨頭である。国家大事ある毎にこの浪人が特殊の活動をして義勇奉公の誠を致すのである。往年三国干渉の時などもこの浪人が奮起して遂に焼き討ち事件なるものを生じた。政府といえども、これを何ともしがたい場合がある、これを強いて圧迫しようとすると、大動乱が起こる。故に、この内情をとくと考慮に入れてもらいたい」(頭山満談・薄田斬雲編著『頭山満直話集』(書肆心水)より抜粋) 「浪人」―――第二次世界大戦の記憶が遥か彼方となり、「平成バブル」すらも忘れ去られている今の我が国において、この言葉は全くもって聞かれることがない。だが、戦前期の我が国においてそれは〝現実〞であり、〝重大な存在〞だったのだ。「浪人」は公職とは一切無縁の存在である。実に無頼なのであるが、だからといって組織的な行動をしないわけではない。彼らが「義」と思うことがあり、それが踏みにじられていると知るや否や、いつの間にやら大勢で徒党を組み、時の政府を転覆させるのではないかと思われるほど大暴れをするのである。 しかしここで気になるのは浪人たち、そしてその棟梁と目されていた頭山満が一体、何を基準にして行動していたのかということだ。ある時、頭山満は「立法府や行政府などといっても結局は政党同士の責任のなすりあいの場であり、それとは別に国政監視府とでもいうべきものがあるべきでは」と水を向けられたのに対して、こんな風に答えている。「私は一生、その(註:政府の)監視をやったのじゃ。時には直接にも政府の者へ警告もした、間接には何時も監視をやって居る。・・・(中略)・・・日本という国体を知らんで、外国の例ばかりいう奴は腑抜けじゃ。外国の憲法論で日本を論ずるのは間違いじゃ」(同上)東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省に外務公務員Ⅰ種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。現在、独立系シンクタンク代表。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という想いの下、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で展開する。今年5月19日に新刊『世界史を動かす日本――これからの5年を迎えるために本当に知るべきこと』(徳間書店)を上梓した。OG GIKEN PRESENTSTakeoHarada株式会社原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役(CEO)原田武夫 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 http://www.haradatakeo.comつまりはこういうことだ。「日本には日本の在るべき道がある。日本人の心の奥底から浮かび上がってくるそれではなくて、どこか他所から借りてきた知識ですべてを解決しようとすることほど間違いはない」ということである。何かというと「外国ではこうなっているから」という議論ばかりが横行し、自己に立脚した自浄能力をもはや持たない現代日本に生きる私たちには誠に耳が痛い言葉ではないだろうか。 選挙の度に空しさが漂う我が国。そこで必要なのは歴史の大所高所から物を見、組織に属さずとも我が国の在るべき姿だけを追い求め続けるが故に政府からも一目置かれる存在=素浪人なのではないか。オンブズマン等という外来語が流行る前からいたニッポンの「政府監視人」頭山満。その姿に却って新鮮な魅力を感じるのは私だけだろうか。

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