つなぐ通信 vol.04 2013冬号
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05TSU NA GU TSUSHIN 3時間聴衆を惹き付ける野口さんのタネの講演会1944年、東京都青梅市生まれ。野口種苗研究所(野口のタネ)代表。親子3代に渡りタネ屋を営む。「日本で唯一固定種のみを扱う日本一小さなタネ屋」として、インターネット販売を中心に、固定種の大切さを伝える講演や執筆活動も行っている。店を継ぐ以前は手塚治虫の『火の鳥』の担当編集者をしており、手塚漫画から得た「命の尊厳」が思考回路の根幹にある。主な著書に『タネが危ない』(日本経済新聞出版)、『いのちの種を未来に』『固定種野菜の種と育て方』(ともに創森社)野口 勳さん写真=貝塚純一 文=成田典子  野口さんがタネの講演を行う条件は「3時間以上の時間をいただくこと」。タネの話は本当に難しく、3〜4時間かけないと説明しきれないのだといいます。パワーポイントを使い、図や写真を用いて休憩も取らず熱く語る野口さんの話に、受講者は身を乗り出すように聞き入ります。 タネとタネ屋の歴史から始まり、タネには「在来種」「固定種」「F1種」「GM種」の種類があること。現在スーパーや八百屋さんなどで売られているほとんどは「F1種」で、これは特殊な品種改良がされており、タネを採っても親と同じ野菜ができない一代限りの野菜であること。「野口のタネ」が扱っている「固定種」は、タネを採って親と同じ野菜が育つ昔ながらの野菜であることなどが語られます。 「F1種」の良さ、「固定種」の良さがありますが、野口さんが危惧しているのは「雄性不稔」という、ミトコンドリア異常で花粉ができない突然変異の花を利用して作られる「F1種」です。花粉ができない「雄性不稔」の植物に、ミツバチを利用して受粉させるのですが、それを食べている人間には影響がでないのか…と。家庭菜園向きで美味しい自家採種できる「固定種」工業化された大量生産のF1種味は薄いが外食産業向き まずは野口さんの「固定種」のタネ採り畑を見たくて、店から1時間近くある飯能の山里に連れて行っていただきました。晴れた日には富士山が見え、星の観測にも絶好な見晴らしのいい山の頂きにタネ採り畑はありました。周りに他の畑は一切ありません。タネ屋のタネ採り畑は、他の野菜などと交雑(花粉が混じって雑種化する)してはいけないので、このような山間部にあるのだといいます。 現在作っているのはお父さんの代から採種を行っている「みやま小かぶ」。柔らかく甘みがあり、全国原種審査会で農林大臣賞を何度も受賞している自慢のカブです。撮影時はまだ「小かぶ」でしたが、かなりの大きさまで育つといいます。畑には小さいカブも、大きいカブもあり生育はまちまち。 「F1種はね、大量生産・大量流通向きに改良されたものだから、生育速度も形状も同じになる。形のいい同 「固定種は一気に収穫できないので、農家や流通には効率が悪いけど、長期間収穫できることは家庭菜園にはぴったり。しかも野菜らしい味がして美味しいんですよ」そう言って野口さんが畑から抜いてくれた「みやま小かぶ」を生で試食。皮のまま食べても柔らかく、甘さがあり本当に瑞々しい。農林大臣賞を何度も受賞している「みやま小かぶ」飯能の中央公園に建立されたアトム像。じ大きさのダイコンやキュウリが店に並んでいるでしょう。均質の方が1本いくらで売りやすい。しかし固定種には多様性があるから生育速度がバラバラ。小さいものも曲がったものもある。だから昔の野菜は量り売りだったんです。 だけど人間だって同じ親から生まれても、勉強を早く覚える子もいれば、遅い子もいる。身長だって違うでしょう。もしみんな同じだったら、病気が発生した時全滅して子孫を残せないかもしれない。多様性があるから、どれかが子孫を残してくれるようにできている。これが本来の生命の姿なんですよ」と擬人化した例えは分かりやすい。ゆうせいふねん

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