つなぐ通信 vol.02 2013夏号
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07TSU NA GU TSUSHIN  お母様は、大阪で有名な医院のお嬢様でした。マドンナ的存在だったかもしれません。絵葉書の中には日本からの留学仲間4人の寄せ書きもあります。お二人を良く知っている悪友らしき文面もちらり。 ドイツではベルリンをはじめ、実にたくさんのところに出かけています。フライブルク、ハイデルベルクなどの大学都市は学術的な目的でしょうか。国際衛生学会でゲッティンゲンに出発したとあります。動力付き飛行機大会のような絵葉書など当時の最先端の様子や、中には外国女性の芸者姿のものなども。ブリュッセルからは長女宛にカタカナの読みやすい文面が添えられています。 スイスでは、登山地図の入った絵葉書に、アルプス登山をしたことや、「田舎はどこも同じ」と書かれていました。日本を思い出したのでしょう。帰国が近づいた頃はロンドンのケン達筆な日本語、カリグラフィーのような欧文に目を奪われます。この時代は美しい文字を書くのは教養のひとつ。お父様は他都市に出かけるとき、交通の要衝となる街でも素敵な絵葉書を出し続けています。左/可愛い女の子のイラストの絵葉書は、長女宛に書かれたもの。 右/パリに立ち寄った時のエッフェル塔の絵葉書。娘の文子さんの記憶も蘇ってきます。カバンを開くと蛇腹の写真が飛び出る立体的な絵葉書。左/ブダペストからは民族衣装を着た女性がカバンを持ったものを。12銭の料金不足のスタンプが押されていました。右/最先端モードのフランクフルトの絵葉書。ブリッジ大学やパリのヴェルサイユ宮殿にも立ち寄っています。 帰国した翌年には三女の文子さんが生まれ、お父様は総勢9人の子どもをもうけました。どの子にも愛情をたっぷり注いだといいます。文子さんはとても旅行の好きな方で、80代まで一人で海外旅行に出かけていました。来年は百歳を迎えますが、素敵な歳を重ねてきたことは、このお顔が物語っているようです。今年99歳になる松本文子さん。目黒区の小規模多機能型居宅サービスを利用し、温かくきめ細かなお世話をしてくださるスタッフの中で安心して過ごしています。無事と元気を伝える行く先々からのメッセージしたら長い間会うことはできません。電話もメールもありません。二人を「つなぐ」ものは、夫からの絵葉書だけなのです。妻は異国の香りにどんなにときめいたことでしょう。

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