つなぐ通信 vol.01 2013春号(創刊号)
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09TSU NA GU TSUSHIN 金継ぎ作業で使う、筆やメノウのヘラ。白い紙包みは「銀粉」。本格的なものは、作業用具や金粉・銀粉など高価なものが多く、ひとつひとつ揃えていくまで、ちょっと大変です。金継ぎは、陶磁器だけではなく、ガラスや漆の器にも施します。縁の欠けた茶托の金継ぎも、まるで始めからこういうデザインであったかのように自然でモダンです。若手作家のお気に入りの磁器ポット。ひびが入っただけですが、あえて割ってより複雑なラインを表現。白黒のコントラストを活かしたいので、金継きにせずこれで完成としました。金継ぎした器は、以前にもまして愛着がわきます。もちろんすべてが普段使い。一人のときもお客様のときも惜しみなく使います。「壊れたらまた直せばいいのよ!」そういって、伊東さんは笑い飛ばしてしまうのです。 3 KINTSUGIHiroko Ito見立て楽しみ、ひび割れさえも芸術に昇華させてしまう美意識。技術だけではない、奥深い表現があります。 「母の世代は、いいものは、もったいないから箱に入れてしまっているけど、ものは使ってあげないとね。大事にとっておいても割れるときは割れる(笑)。私は、割れたら捨てるのがいやだから、捨てない方法を覚えたかったの」 伊東さんは、価値のある骨董だけでなく、印判(プリント)の安い器も金継ぎするといいます。自分にとって、思い出のある器は価値ある器です。「まだ、技術は未熟だけど、いつかは呼び継ぎをしたいの」。呼び継ぎは、全く違う割れたものを「呼び込んで」「つないで」新しいものを作り出す手法です。どんな出会いがあり、どんな形になり、どういう新しいものが出来上がるのか…まるで人生ドラマのようです。今回の特集では3人の方を取材し、それぞれのお宅にお邪魔させて頂きました。そこには「暮らしの美学」があり、「美しい暮らし」があったように思えました。

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