つなぐ通信 vol.01 2013春号(創刊号)
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17TSU NA GU TSUSHIN 上/佐藤市長が所有する山口瞳の著書とテレビドラマ『居酒屋兆治』の台本。右の『居酒屋兆治』は初版本。左/うなぎ押田の個室に飾られた掛け軸。山口瞳の書に、関頑亭の仏画が描かれている。国立市長。1947年生まれ。国立市谷保出身。国立市役所の福祉部長を務めた後、国立市の社会福祉協議会会長に。2011年現職。「ガマさん」の愛称で親しまれており、文化人との交流も多い。山口瞳のエッセイ『男性自身』にたびたび登場する「市役所のガマさん」のモデル。山口瞳原作、高倉健主演の映画『居酒屋兆治』ではエキストラで参加した。さとうかずおproleには小屋の脇に縁台を並べて飲んだりもしました。親父さんは信念を曲げない方でね、誰ひとり分け隔てしない。草野心平がお好きで『凸凹の道』の精神を大事になさっていた。それが店の心地良さに通じていた気がします。 僕が飲み屋に求めるのは、まず人の心が通い合う場であること。食べ物屋ですから、旨いのは大前提ですけれど、人との関係はそれを超えるところがありますね。お酒を飲む時には、マナーも大切です。たとえば失礼な言葉遣いをしても、その場では誰も注意しない。でも、もう呼ばれることはなくなりますし、口もきいてもらえません。店にも出入りできなくなる。山口瞳先生は特に厳しい方でしたしね。でも、その怖さがまた魅力なんです。 僕が飲みに行くのは、日常から非日常に移る喜びがあるから。川を飛ぶというか、ボーダレスみたいな場がいいんですよね。だから日常の延長みたいな店にはあまり行きたいとは思わない。日常の延長になると、職場の話や愚痴、上司の悪口とか、自分の身の回りの世界から抜けられないでしょ?僕にとって飲みに行くことは、どんな素敵な方とお話しできるか、どんな出会いの機会が持てるかが大きいです。 そうして誰かと出会えたら、その後は自分の努力次第。自分がどれだけ人と接する力を持ち、どう咀嚼して、次に展開できるか。誰ひとり分け隔てしない親父さんの信念人との出会いは何物にも代え難い緑豊かでゆったりと暮らせるまちにそれで年にひとり、友人が増えたら幸せです。知り合いはどんどん増えますよ。でも「ガマちゃん、お宅に泊まっていくわ」という人は3年に1度ぐらいかな、僕の場合でも。 今、国立では高齢化が進んでいます。今までずっと右肩上がりの経済でやってきましたが、すでに成熟の時。これは千載一遇のチャンスだと言っているんです。縮小再生産の成熟化社会を目指して、国立をゆったりと暮らせるまちにするよいチャンスだと。そこでまちの東西を走るさくら通りの4車線ある道路を2車線にして、歩道を広げる計画が進行中です。歩道と自転車道を分けて、人々がのんびり散歩できるようにする。住宅街の中に旨い食事ができる店がある。文蔵さんのように懐の深い店がある。ゆとりのあるまちを作ることが、国立で生まれ育った僕の願いです。いる。のは、さまざまな職業の人たち…、土建業の人、新聞社の役員、大企業の労組など。皆さん、身分を明かすわけじゃないけど、会話をするとそれなりのレベルの人だとわかる。作家の山口瞳先生や芸術家の関頑亭先生も常連で、ここで知り合いました。大体、皆、バラバラなことを言っているんですよ。農地問題から、資本主義がどうの近代国家がどうと話が発展して、議論がどんどん深まっていく。それは楽しかった。どれも生産につながる話ですからね。 時には、「ガマちゃん、頭悪いなあ。もうちょっと本読んだ方がいいんじゃないの?」なんてバサッと言われたり。僕は文学なんて知らない人間でしたから、もう悲劇ですよ。皆わかっているのに自分だけわからない。悔しいからムキになって、寝ないで本読んだり。その繰り返しで随分、鍛えられて。 僕が文蔵さんに通いだしたのは25歳頃、まだオープンしたてでした。当初、親父さんはぶっきらぼうでね。「いらっしゃい」の一言もなくて、焼き鳥が食いにくいというか、酒がまずいというか(笑)。そして酔っぱらってくると、追い出される。代議士や作家、俳優さんなど有名な方がいらしても、絶対に優先しない。どんな人でも席が埋まっていれば、順番通りに立って待つ。待っていると、親父さんに「目障りだから出てってよ」とか言われたりして、暖かい季節■取材場所/うなぎ押田故・山口瞳氏の行きつけの店。国立駅、谷保駅から徒歩20分。閑静な住宅街の中にある。東京都府中市北山町3-24-2TEL 042・573・3167月曜定休 営業時間 11時〜14時 16 時〜20時

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